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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)9969号 判決 1996年2月15日

原告

楠本まさ子

被告

武田三郎

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金一〇二四万五二七五円及びこれに対する平成六年八月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告らの負担とし、その余は原告とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告らは、原告に対し、各自金二九六五万八三三〇円及び右金員に対する平成六年八月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、道路を横断中の歩行者を大型貨物自動車が跳ねて死亡させた事故に関し、死亡した被害者の遺族が、同車の運転者に対し民法七〇九条に基づき、右運転者の使用者に対し民法七一五条一項に基づき、損害賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実等

1  次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成六年八月二四日午前九時五五分ころ

(二) 場所 大阪府八尾市相生町三丁目五番二三号先路上(以下「本件現場」という。)

(三) 加害車両 被告武田三郎(以下「被告武田」という。)が運転する大型貨物自動車(なにわ一一あ五二九七、以下「被告車」という。)

(四) 事故態様 被告武田が交通渋滞のため先行車両に続いて停止していた被告車を発進させた際、自車前方を左から右へ横断中の木田清子(以下「清子」という。)に気付かずに自車の右前部を清子に衝突させ、路上に転倒した清子を自車の右前輪で轢過して死亡させたもの

2  被告らの責任

(一) 被告武田は、本件事故につき、被告車を発進させるに当たり、自車前方の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠つて自車を発進させた過失があるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負担する。

(二) 被告株式会社森田運送店(以下「被告森田運送店」という。)は、被告武田の雇用主であり、本件事故は被告武田が被告森田運送店の業務のため被告車を運転中に惹起されたものであるから、被告森田運送店は、民法七一五条一項に基づく損害賠償責任を負担する。

3  原告は、清子の妹であり、唯一の相続人である(甲八ないし一九)。

4  原告は、被告森田運送店が付していた自賠責保険から一〇四六万一五八五円の支払いを受けた。

三  争点

1  過失相殺

2  損害

第三争点に対する判断

一  争点1(過失相殺)について

1  被告らは、清子が歩車道の区別ある交通量の多い幹線道路(国道二五号線)を渋滞中の停止車両間で、しかも、被告車の直前を通つて横断したものであるし、被告車は大型貨物自動車であつて車両前下方の視界が非常に悪く、車両直前の歩行者に気付きにくいことを考慮すれば、清子にも相当な過失がある旨主張するので以下判断する。

2  前記争いのない事実及び証拠(甲三)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件現場は、市街地を通る縁石で歩道と車道が区別された片側一車線のアスフアルトで舗装された平坦な東西道路(国道二五号線)であり、道路幅は六・四メートル(車線幅は各三・二メートル)、歩道幅は一・三メートルである。本件事故当時は晴れで、路面は乾燥していた。

(二) 被告武田は、被告車で右道路の東行車線を走行中、交通渋滞のため先行するライトバンに続き、同車との車間距離を約二メートルあけて停止した。しばらく停止した後、先行車両が動き出したので、被告車の前方の安全を確認しないで被告車を時速五ないし六キロメートルで発進進行させたが、折りから、右道路の先行するライトバンと被告車の間を北から南へ(被告車進行方向からみて左から右へ)横断していた清子に被告車の右前部を衝突させて清子を転倒させ、被告車の右前輪で轢過して死亡させた。

(三) 被告車は大型貨物自動車であるが、目視やアンダーミラー等によつて同車両の直前下方の状況を見ることができた。

3  以上の事実によれば、本件事故は、被告武田が大型貨物自動車である被告車を発進する際、同車両の直前下方が死角になるからアンダーミラー等で安全を確認した上で発進進行すべきであつたにもかかわらず、これを怠つて発進進行した過失により発生したものであるが、他方、清子にも、歩車道が縁石で区別された比較的交通量の多い国道二五号線(道路幅が六・四メートルであるから、過失相殺事由のいわゆる幹線道路には当たらない。)において、交通渋滞で停止中のライトバンと被告車の間(車間距離約二メートル)を横断しようとした過失があり、前記した事故態様を照らせば、右過失割合を二割とするのが相当である。

二  損害(円未満切捨て)

1  逸失利益(請求額労働能力喪失分八六八万二六五八円、年金受給権喪失分四六〇万八五七九円)

労働能力喪失分 一三二万二六六四円

年金受給権喪失分 四一九万三〇五六円

清子は、本件事故当時、七五歳の年齢にしては健康な女子であり、大阪府八尾市で約三〇年前から独り暮しをしており、無職で年間一五五万七九〇〇円の厚生年金の受給を受けて生計を立てていたことが認められる(甲四、五の1、2、証人木田有利子)。

右事実によれば、清子には、平成五年度の賃金センサスの第一巻第一表の産業計・企業規模計の女子労働者の学歴計六五歳以上の年収額の五割程度の収入を二年間得る蓋然性を認め、生活費控除率五〇パーセントとして労働能力喪失による逸失利益を算定すると、以下のとおり一三二万二六六四円となる。

2,842,300×0.5×(1-0.5)×1.8614=1,322,664

被告らは、厚生年金の逸失利益性を否定されるべきである旨主張するが、厚生年金の逸失利益性については、肯定する解釈が妥当であるところ(最高裁平成五年九月二一日第三小法廷判決参照)、清子は、前記した年間一五五万七九〇〇円の厚生年金の受給を受けていたが、独り暮らしで年金生活を送つていたことに照らせば、生活費控除率は六〇パーセントとするのが相当であり、平均余命を一一年として厚生年金受給権喪失による逸失利益を算定すると、以下のとおり四一九万三〇五六円となる。

1,557,900×(1-0.6)×(8.5901-1.8614)=4,193,056

2  死亡慰謝料(請求額二一〇〇万円) 一八〇〇万円

原告は、幼いころ、養子に出されたため、清子とは離れ離れに暮らすようになり、およそ六〇年の間、全く音信がなく、疎遠であつたこと(原告)に加え、清子の年齢、生活状況等に事情を勘案すれば、死亡慰謝料としては、一八〇〇万円が相当である。

3  以上の損害合計二三五一万五七二〇円となり、原告は、右損害賠償請求権を相続した。

4  その他諸費用(請求額四三二万八六七八円) 一二〇万五三五六円

原告は、本件事故により自己が支払つた右諸費用のうち、葬儀関係費用四二二万〇六八〇円を主張するが、本件事故と相当因果関係にあるものとしては、一二〇万円が相当である。

また、その余の費用で本件事故と相当因果関係にあるものは、入院のための諸費用三二九六円(甲二〇の1)、診察書代二〇六〇円(甲六の1)を認めるのが相当である。

5  以上の損害合計は二四七二万一〇七六円となるが、前記した二割の過失相殺をし、自賠責保険の既払金一〇四六万一五八五円を控除すると、九三一万五二七五円となる。

6  弁護士費用

本件事案の内容、認容額等一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、九三万円とするのが相当である。

三  以上のとおり、原告の請求は、金一〇二四万五二七五円及びこれに対する本件事故日である平成六年八月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木信俊)

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